文鳥(ブンチョウ)を飼いましょう!


 動物行動学の泰斗であり、ノーベル賞も授与されているコンラート=ローレンツ博士は、その一般人に向けたエッセイ『ソロモンの指環』(早川書房 改訂版1987年)の中で次のように主張されています。

 「動物が安いとか高いとか、飼いやすいとか飼いにくいとかは問題ではない。(中略)もっと大切なのは、その動物でどんなことがみられるかということではないか」

 白や桜文鳥のヒナであれば、千円札が2枚あれば買えるくらいに安価です。そして、手のひらに包めてしまうほど小さな生き物ながら、寒さにも暑さにも適応力が高く、安価な雑穀などを主食に、室内で生活してくれますから、もっとも飼いやすいペット動物の一つでるのも疑いないところです。しかし、安価で容易でありながら、その動作の多様さ、賢さ、手乗りにした場合の人間に対する信頼感、どれをとっても犬猫に引けを取らないものがあります。
 もし幼い頃の記憶で、「そんなだったかなぁ?」と思う人は、幼少時の自分を過信しているのかもしれません。しっかりと注意深く観察していれば、コンラート先生も草葉の陰でビックリするくらいに、個性を持って感情豊かに行動し、しかも空中を飛び回る!素晴らしい小さな生き物を発見出来たはずなのです。

 安くて小さな生き物なんて、頭が悪いし単純などと思ったら、これは大きな誤りです。
 私は長年、賢い中型犬とも付き合ってきましたが、25gに過ぎない文鳥が、時に犬より賢いのではないかと思ったり、実は飼い主である人間の心情など全部お見通しなのではないかと思うことさえあるのです。しかも、すでに四半世紀以上文鳥と暮らしていますが、文鳥たちに「どんなことがみられるか」日々に注意していると、これは驚きの連続で、興味が尽きません。
 同じ家庭で苦楽をともにし、共にある生き物の素晴らしさを実感できるペットとして、文鳥の飼育を是非お勧めする次第です。

 生き物としての素晴らしさのみでなく、数あるペット動物の中でも賢い文鳥は、我々現代人と一緒に暮らすのに適した特性も有しています。
 例えば、鳥カゴを置ける50p四方のスペースがあれば飼育できますし、犬のように外を散歩させる必要もありません。気が強い文鳥が多いですが、かむ力は大したことがないので、間違っても飼い主が大ケガをする危険はありませんし、電気コードなどを噛み切ったり、家具を傷つけるといった心配もありません。 また、明るいところで行動し、暗くなれば寝てしまうので、寝室の近くでも、ハムスターの夜中の「運動会」に悩まされるようなこともありません。
 そもそも、日中の鳴き声にしても、昔の人は文鳥に『千代』と名づけることが多かったように、「チヨ・チヨ」と、近隣に迷惑をかけることは考えにくい優しげな響きのものでしかありません。音量も窓を閉めてしまえば外に漏れない程度で、大型インコやウズラのように夜鳴きもしないのです。
 フン製造機で頻繁にフンをしますが、通常、小指の先ほどの大きさのそれは、ほとんど無臭ですぐに乾き、掃除も簡単です。また、アンモニア臭のするおしっこもしません。
 ようするに文鳥は、自宅の一室内で他に何ら迷惑をかけずに生活してくれるのです。

※賃貸で「ペット禁止」といった条項がありますが、誰の迷惑にもなりようがない、金魚など観賞魚や小鳥は対象外とするのが一般的です。

 さらに、ほ乳類のペット動物に比べ、人間に感染する病気(共通感染症)もきわめて少ないという利点もあります。この点で、オウム病や鳥インフルエンザなどといった、ちょっと耳にした言葉だけで誤解をしている人も多いですが、それらの病気は特殊な存在で、人間がほ乳類に属する動物である以上、感染症を共有する危険は、鳥類などよりほ乳類の方がはるかに高いのが科学的な現実です。
 つまり、もし共通感染症を恐れて鳥が飼えないなら、より以上に犬猫などは飼えません。さらに根本的には、まったく生物として同種で病気にかかっている人もいるはずの人間がうごめく、満員電車や繁華街などに近づくのは、自殺行為以外の何物でもありません。一緒に生活し、お互いに病気を感染させる危険が、人間家族やほ乳類の生き物よりも少ないのが、鳥類なのです。

 さて、あれこれ申し上げましたが、文鳥ほど人間が一緒に生活するのに適した動物は少ないと、結論する以外に無いように思います。それが嘘か誠か、ご自分でその良さを見つけるべく飼育して、ご確認して頂ければ幸いです。


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