文鳥と暮らすための本

1章 ヒナとの生活

3、 手のりヒナの選び方

・ ヒナの健康状態をしっかりチェックする

値段だけで選ぶようなことはしない

店員の話をすべてそのまま信用しない

 

元気なヒナの横顔
元気なヒナの横

一般的には、(1)体が大きくて、(2)目が生き生きとしていて、(3)そのうが赤くない、(4)お尻が汚れていない、(5)指が欠けていない(指を欠く=爪傷【つまきず】)、(6)脚が外側に大きく曲がっていないヒナを選ぶべきとされています。これらはいずれも、ヒナを選択する際の正しい基準と言えますが、(1)(2)(5)は、不可欠なものではありません。
 確かに、小さくやせて見えれば、食欲不良で不健康なヒナかもしれません。しかし、健康でも小柄な系統の文鳥の可能性もあります。確かに、健康なヒナは、目がランランと輝くように見え、逆に目が垂れて眠たげな目付きのヒナは、病気で不活発になっているものです。しかし、少しとぼけたキャラクター、いわゆる「天然」な性格の持ち主で、眠たげな目付きでも、健康には問題ないこともあります。さらに、指が一本欠落していたところで、普通の生活や繁殖に差し障りなどほとんどありません。したがって、そのような問題点を承知しつつも(問題点が複数あれば避けるのが無難)、あとは自分の好みを大切にして選んで良いと思います。
 (3)(4)に該当するヒナは、残念ながら病気の可能性が高くなるので、選択を避けるべきです。首の部分にあるエサを一時的に貯めておく透明の袋がそのうと呼ばれる器官ですが、そこが赤く見える場合は、炎症を起こしている可能性が高く、食べ物が上手に消化できず衰弱してしまうことが多いのです。また、お尻の穴(総排泄孔【そうはいせつこう】)の周囲が汚れていれば、消化不良の軟便をしていることになるので、消化器官に異常があると見なせます。もし、気に入ったヒナには問題なくとも、同じ入れ物に入っている他のヒナに、そのうが赤く見えたり、お尻が汚れているヒナがいれば、一緒にいるすべてのヒナに感染している可能性があるので、残念ですが、そのお店で購入するのは避けるべきでしょう。
 (6)については、もし脚が外に流れるような、いわゆるガニ股状態であれば、ペローシス(腱がはずれて外股になる先天的な奇形)の疑いが濃厚となります。症状の程度にもよりますが、重度になると普通に飼育するのも難しくなってしまうので、一般的には購入を避けるべきでしょう。また、羽が生えそろって羽ばたくまでに成長しているのに、指先をゼンマイ状に丸めて腹ばいで歩く様子のヒナは、不適切な食べ物で栄養性脚弱症になってしまっている疑いが濃厚です。いずれの場合も、そのような状態のヒナを普通に販売するお店には、大きな問題があるので、あまり近づかないことをお薦めします。

 

※ 取り扱いに問題があるお店で購入しなければならない場合、生後2週間前後の比較的に幼いヒナとなりますが、事前に入荷日を聞き出し、入荷した当日に引き取りに行くと良いでしょう。

 

お尻に圧倒されるヒナ
お尻に圧倒されるヒナ

文鳥は、普通にお店で購入しても、せいぜい数千円で買えてしまいます。しかし、例え千円札1枚で購入した桜文鳥のヒナでも、我が家に連れ帰って自分の手でエサを与えれば、我が子のような唯一無二の存在になるのが普通だと思います。そうなれば、購入した時の値段など関係なく、用具の購入や病気の治療など、必要となれば何万円の出費でも惜しくないものです。

その 文鳥の価値は、飼育というより一緒に住み暮らすことで、飼い主自身が日々に得ていく貴重な経験から、何を感じ取っていくか、その質や量という目に見えないもので高まっていくものだと思います。そうした自分が得る経験の価値は、飼い主自身が感じとるものですから、価値の有る無しは飼い主の心がけ次第と言えるのではないでしょうか。
 壊れても買い換えられる大量生産された同じ物でしたら、より安いお店で購入したほうが良いかもしれません。しかし、ひとつひとつの生命は物ではありません。特に個性が魅力の文鳥は、一羽一羽はっきりと違いますから、買ったヒナの代わりなどあり得ません。今後10年共に暮らすことになるかもしれない唯一無二の存在ですから、数百円や数千円の違いよりも、健康状態や自分の好みなどを優先して選ぶべきでしょう。購入時の値段など、買えるだけのお金が、その時たまたま財布の中に有るか無いか、の意味でしかないと思います。  

 

ハート
目付きの悪いハート

さて、「幸運な出会い」「運命の出会い」によって、自分の文鳥を見つけ購入する際には、動物の愛護及び管理に関する法律(動物愛護法)により、販売するお店から、基本的な飼育方法などの説明を受けることになっています(省くお店も多いです)。もちろん初めて飼育する人はしっかり聞くべきですが、店員さんもいろいろで、中には飼育の基本から遠くはなれた無茶苦茶な話をする人もいるので、注意が必要です。
 誤解しやすいですが、ペットショップでは生き物を生まれてから亡くなるまで『飼育』しているわけではありません。お客さんに売れるように、売れるまでの間、仕入れた商品である生き物を『展示』しているに過ぎないのです。したがって、店員さんも、自分の家庭で飼い主として文鳥の世話をした経験のない人がほとんどで、商売上のサービス精神から親切にいろいろ教えてくれたとしても、残念ながら限られた場所と期間で得られただけの間違った知識であることも多く、中には、実行すると生命が危険にさらされることになりかねない内容さえあります。とりあえず無条件に信用しないようにしましょう。

また、ペットショップによっては、文鳥のヒナの品種による色合いすら正確に理解せず、間違った品種名で販売していることもあります。「手のり文鳥」として流通している文鳥のヒナは、通常、白、桜、シナモン、シルバーの4種類のみですから、お店の表示に頼らなくとも、それぞれの品種のヒナの頃の外見をわかるようにしておいたほうが良いでしょう。

 

クチバシ色 頭の色 胴体の色 尾羽の色
  白文鳥のヒナ ・クチバシの色は淡いピンク。
・羽色は、全身白か、背中に淡い灰色が入る。
ところどころに灰色の差毛があっても、成鳥(=成長後のおとなの文鳥)になれば純白になることが多い。ただし、尾に黒い羽が混じると、純白にならない可能性が高くなる
 
  桜文鳥のヒナ ・クチバシの色は黒。
・羽色は、全身がやや茶を帯びた灰色で、尾羽は黒一色。
クチバシにピンク色の模様があったり、根元がはげて黄色味を帯びるほど、歳をとるごとに全体が白くなっていく
 
  シナモン文鳥のヒナ ・クチバシの色は淡いピンク。
・羽色は、全身淡い茶色一色(部分的に濃淡・祖先に白文鳥がいると白斑が入る)。
 
  シルバー文鳥のヒナ ・クチバシの色は黒。
・羽色は、やや青みを帯びた薄い灰色一色(部分的に濃淡・祖先に白文鳥がいると白斑が入る)。
 

 

≪参考リンク≫ 文鳥写真展

 

なお、お店によっては、生後一か月ほどたち飛び始めるまでに、ヒナの片翼もしくは両翼の羽を切って飛べなくしていることがあります。エサを与える際に逃げないようにするための処置ですが、そのままにしておくと、自然に生え変わりの時期がくるまで、長ければ1年もの間、遊び盛りの時期を飛びたくても飛べない状態で過ごさせることになってしまいます。これは、ヒナの自然な発育にとって、マイナスになるだけです。
 そこで、購入したヒナの翼を確認して、羽が途中で欠けているようなら、その欠けた羽の中心(羽軸【うじく】)を持って、一本ずつ少しひねるようにしながら一息に抜いてしまいましょう。痛みはないか、嫌われてしまわないか、と戸惑ってしまいがちですが、人間が髪の毛を抜く時と同じように、少しねじるようにしながら一瞬力を入れて思い切り引っ張れば、案外簡単に抜け、痛みも一瞬で済みます。根元から抜いてしまえば、2、3週間で確実に新しい羽が生え、普通に飛びまわれるようになりますから、迷わず、抜きましょう。

羽切らないでね!
羽切らないでね!

羽を抜く時の保定例
※ 羽を抜く時には、治療や爪切りの際のような保定(動かないように握る)は必要ありません。例えば右の写真のように、手のひらに包んだ状態で、親指と人差し指で翼を開いて、軽く抑えておく程度で十分です。


将来の姿を予想したい!

 文鳥の大規模生産の中心地だった愛知県弥富市産の白文鳥には、特別な遺伝子的特徴があり、白文鳥同士だと繁殖率が低下しました(25%が卵の中で成長中止となってしまう。ただし、他地域から親文鳥の導入により、最近では、弥富産でも弥富系の特質を持たない白文鳥が多くなっています)。そこで伝統的に桜文鳥と番(つがい、夫婦・カップル・ペアのこと)にして繁殖を行っていましたが、結果、近い祖先に桜文鳥を持つ日本の白文鳥には、背中に灰色の羽毛を持ち、何度か換羽しないと純白にならないことにもなってしまいました。
  一方、台湾などでは、繁殖率を低下させる遺伝因子を持たない白文鳥同士を掛け合わせていったため、桜文鳥の影響がなくなり、ヒナの時からほとんど全身真っ白のヒナとなっています。
 また、弥富との白文鳥と桜文鳥の子供は、白文鳥か桜文鳥に産み分けられるのに対して、
台湾などの系統の白文鳥と桜文鳥では、ほぼすべて中間的なゴマ塩模様の文鳥が生まれるといった違いもあります。
 つまり、繁殖率を低下させないために、白と桜の異種間交配が必要となるのは、弥富系のみですが、その違いを理解できない繁殖家が多いようで、安易に異品種交配を行い、結果、
ミックス(雑種)であるゴマ塩模様の文鳥が、桜文鳥の一種として、もしくは誤って白文鳥として、流通していることがあります。

 純白を望んでいたヒナに、有色羽毛が多少残っても、くっきり色分けされた桜文鳥を望んでいたヒナが、ゴマ塩柄に育っても、飼い主には自分の文鳥の姿こそが、一番に見えてくるものです。しかし、次のポイントを覚えておけば、成長後の姿が希望に近いヒナを選ぶことができます。


・ 白文鳥を望む場合は、クチバシが完全にピンク一色で、全身真っ白か、背中が少々灰色の羽毛があるヒナ。
・ ゴマ塩柄を望む場合は、クチバシはピンクと黒が混ざり、背中ばかりでなく頭にも灰色の羽毛がかなり見受けられ、尾羽がほとんど黒いヒナ。
・ 原種に近い色柄のはっきりした桜文鳥を望む場合は、クチバシの根元まで完全に黒一色、全身は濃い灰色一色、尾羽はすべて黒いヒナ。


   

  白の差毛が多くなる桜文鳥のヒナゴマ塩柄が美しい文鳥

 左は白羽が多くなる桜文鳥のヒナで、右は典型的なゴマ塩柄の文鳥です。左のヒナのお腹の部分や頭がより白いと、ごま塩柄になる可能性が高まります。

 

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