文鳥と暮らすための本

1章 ヒナとの生活

5、 ヒナのエサ

・ 栄養のバランスを考える

・ アワ玉主体の湯漬エサが無難

・ 「有識者」に振り回されない

 

文鳥のヒナを人間が給餌(きゅうじ、餌付け【えづけ】・差餌【さしえ】)して育てる時、どういったエサが最も適切なものとするかは、考え方がいろいろです。ここでは、最も長い実績があり、初心者でも間違いが起こりにくく、日本で飼育される文鳥の親鳥が与える内容に近いと思われる、アワ玉(外殻をむいた粟【あわ】に鶏卵の黄身などをまぶした飼料)を主体にした方法について説明します。

 

孵化したヒナに親鳥が与える最初のエサは、黄色い液状のものとなっています。これは、おそらく鳩がヒナに与えるそのう乳(ピジョンミルク)と同じようなもので、親鳥のそのうで作られ、ヒナに栄養とともに病気に対する抗体を与える役割があると思われます。しかし、文鳥の場合、この液体状の特殊なエサは初めだけで、すぐに自分が食べたものをそのままの形で与えるようになります。つまり、クチバシでむいて飲み込んだ粒状のエサや青菜と水が、のどの袋(そのう)で合わさったものを、そのまま吐き出したものが、ヒナのエサとなります。
 このため、むいたアワを原料とするアワ玉主体のエサは、アワを含む雑穀を主食とする親鳥が与えるエサの内容に近く、そのため、親鳥から引き継いだ後のヒナの抵抗感がより小さなものになり、移行がスムーズになると考えられます。

 

 
孵化当日のそのうの様子
黄色い液状のものを与えられている。 
孵化2日目のそのうの様子
粒状のエサと緑色の青菜が与えられている。
孵化5日目のそのうの様子
粒状のエサ、青菜、ボレー粉が与えられている。 

 

育雛中の親鳥を観察すると、普段では考えられないほど、ボレー粉や青菜を食べるのに、驚かされます。それはなぜなのか、科学的に説明するなら、ヒナの成長のために、ミネラルやビタミンが多く必要になるためです。一方、一部のペットショップなどでは、市販のアワ玉をお湯に浸したエサだけで、文鳥のヒナを育てようとするので、栄養不足の問題が起こってしまいます。
 栄養面を考えれば、ムキアワには、骨を形成するために必要なカルシウムやビタミンDが含まれていないので、市販のアワ玉の質や与え方(お湯でコーティングされた玉子の成分を捨ててしまう)によっては、骨の形成がうまくいかない栄養障害(骨軟化症・くる病)を起こしても不思議はありません。また、むきエサを元にするため、胚芽部分(お米のヌカに相当する部分)に多く含まれるビタミンB1(チアミン)がけずれ取れてしまい、脚のしびれや心臓発作を引き起こす脚気(かっけ)という病気にもなりやすくなると考えられます。実際、人工給餌中に、脚の異常があらわれる文鳥のヒナが多いことが、昔から知られていて、『栄養性脚弱症』と総称されて問題とされていました。
 アワ玉のみの湯漬エサでは、栄養性の脚弱症状を起こしてしまう危険性が高まってしまうことを理解して、ビタミンA、B1、D3、カルシウム、ナトリウムさらに体が成長するのに必要なタンパク質の強化を心がけましょう。

 

なお、ナトリウムは塩分と言い換えられますが、小鳥の主食になるアワなどの雑穀や副食の青菜には、ほとんど含まれていないので、日本人の食生活での過剰の心配とは反対に、飼育されている文鳥では、不足が起きる可能性が高くなります。文鳥にとっての適量を把握しにくいので、塩そのものを添加するのではなく、ボレー粉や煮干などの海産物を加えることで補いたいところです。

 

※ 海産物には、カルシウムやナトリウムなどのミネラル成分や、生き物が生きていくのに必要な元素(必須元素)を含むので、ボレー粉、カトルボーン、煮干などを、一部に取り入れたほうが良いと思います。なお、卵の殻はカルシウムがとても豊富ですが、その他のミネラルや必須元素は期待できません。

 

  栄養不足による影響
ナトリウムの不足 → 食欲が減退し、嘔吐をおこし、脱力症状 を示す。 

カルシウムの不足 → 骨格形成が正常に進まず成長が滞る。

 
ビタミンAの不足 → 免疫力低下で病気にかかりやすくなる。  

ビタミンB1の不足 →脚気となり、食欲がなくなって、脚が動かなくなる。

ビタミンD3の不足 → 骨軟化症(クル病)となり、骨が変形する。

 

 補助飼料の栄養比較 《単位略》
  エネルギー タンパク 脂質 炭水化物 ナトリウム カルシウム ビタミンA ビタミンB1 ビタミンD
精白アワ 364 10.5 2.7 73.1 1 14 0 0.20 0
乾燥卵黄 724 30.3 62.9 0.2 80 280 630 0.42 4.9
全粒きな粉 437 35.5 23.4 31.0 1 250 4 0.76 0
米ヌカ 296 13.2 18.3 46.1 5 46 0 2.50 0
煮干し 332 64.5 6.2 0.3 1700 2200 0 0.10 18.0
かつおぶし 356 77.1 2.9 0.8 130 28 0 0.55 6.0
ボレー粉 210 38000

※ 出典『日本食品標準成分表』『日本標準飼料成分表』

 

市販されているヒナ用のパウダー状補助飼料は、通常、このような不足する栄養成分を補う内容となっています。従って、それをアワ玉に対して重量比で1〜2割程度加えるだけで、栄養面の心配は解消します。アワ玉だけの湯漬エサでも、脚弱症にならずに成長する文鳥の方が、比率としては多いのが現実ですから、成長に必要な最低限の栄養は、アワ玉にほんのわずかに加えるだけで、まかなえるものと見なせる程度なのです。
 一方、栄養をたくさん摂らせたいと思って、アワ玉の湯付エサに、パウダーフードを大量に混ぜてしまうと、かえって消化不良を起こしてしまうことにもなるようです。これは、アワ玉とアワ玉のすき間に微細なパウダーフードの粒子が入り込んで、接着剤の役割を果たしてしまい、エサが大きなかたまりとなることで、そのうから食道にエサが落ちていかなくなる(=食滞【しょくたい】)ためだと考えられます。補助的なものは、分量が多くなりすぎないように気をつけましょう。

 

パウダー状補助飼料を、自分で作っている飼い主も多いです。材料としては、カルシウムやその他のミネラルを多く含むボレー粉、カルシウムが豊富な小鳥用飼料のカトルボーン(甲イカの骨)、植物性タンパク質が豊富なきな粉(大豆の粉)、動物性タンパク質やカルシウム、ビタミンD3も豊富な煮干(いりこ)、ビタミンB類が豊富な米ヌカなどが利用されます。さらに、ビタミンA類が豊富な、小松菜などの青菜を細かく刻んだり、ペースト状に擦ったものを混ぜると、栄養的にもより完璧に近づけることができるでしょう。
 なお、親鳥は、ボレー粉も砕かずにそのまま与えてしまうようですが、給餌のエサとしては、より安全性を高めるため、すり鉢などでパウダー状にした方が良いでしょう。その際には、すべてのボレー粉をパウダー状に砕くのは難しいので、目の細かな茶こしなどでふるいにかけつつ、少しずつ作ると良いでしょう。

 

 
1羽につき小さじ1杯弱を入れる。 熱湯を注ぎ1、2分待つ。 上澄みのお湯を捨てる。  
 パウダーフードは、きな粉や米ぬかを含む市販のものに、煮干、ボレー粉、カトルボーンをパウダー状にして混ぜています。

 青菜は、小松菜と豆苗(えんどう豆の若芽)をすり鉢でペースト状にしたものを用いています。
 
パウダーフードと青菜を入れる。 混ぜ合わせて完成。 40℃程度に冷めてから与える。   冷たくなってきたら小鉢にお湯を張り湯煎しながら与える。
給餌器をトントンと上下させて筒先に1センチ程度エサを詰める。

※ まだ飛べない段階のヒナは、自分の体温に近い温かな状態を好みます。
最初に熱湯とするのは、より早く水分をアワにしみ込ませるためです。


※ 親鳥の元から引き継いだり、ペットショップから迎え入れたりした当初は、
未消化便(アワ粒がそのままフンに混じっている)となることがありますが、
その場合は、上の3番目お湯を捨てた段階で、すりこ木などで数回つぶしましょう。

 

 

孵化9日目満腹のヒナ
満腹になっているヒナ

パウダーフードのみをシリンジなどで与える方法では、前の給餌で与えたエサが残っていると、消化不良になってしまう危険性があるため、そのうが空になってから、次の給餌をする必要があるそうです。しかし、その危険性が大きいとすれば、鳥用の人工飼料ペレットのみを与えるような飼育環境での繁殖は、難しくなってしまうように思われます。
 なぜなら、親鳥は人間のようにヒナのそのうを確認して与えることはなく、自分の巣の中でヒナが口を開けていれば、本能的に給餌しなければならないからです。その本能を刺激するために、ヒナの口の中や周りは白〜黄色の明るい色をしていて、暗い巣の中で目立つようになっていますが、そのヒナも、巣に入ってくる親鳥の気配を感じれば、完全に満腹な時以外は、口を開けるのが本能です。したがって、生まれて間もない目の見えないヒナでも、ちょっとした振動に反応して口を開けます。つまり、ペレットだけを与えられている親鳥たちは、パウダーフードをお湯に溶いたのと同じように、そのうの中でドロドロに液状化したエサを、前のエサが残っているヒナに与えなければならないはずです。
 これに対して、アワ玉を主体にした湯漬エサの場合、給餌のたびにそのうに蓄積されて、夜の最後の給餌段階で、そのうが大きく膨れた状態になります。つまり、前に与えたエサがそのうに残っているのが当たり前です。もし、前のエサが残っていれば消化不良を起こすなら、親鳥は日中の給餌量を少なめに調節して、夕方の最後の給餌に満杯になるようにまとめて給餌しなければいけないはずですが、そのような調節は、人間でのみ可能なものです。
 そもそも野生状態では、親鳥は明るい時間帯にしか食べ物を探せないので、ヒナたちも夜間に給餌を受けられません。そこで、夜までにそのう一杯にエサを貯めこんでいき、長い夜間にそれをゆっくりと消化して、その栄養で成長するのが、本来の姿です。従って、アワ玉主体の人工給餌でも、そのうに残ったエサ前のエサを気にせず、最終的に満杯になることを目指し、その満杯のエサが、朝には空っぽになっているのが、健康な状態なのです。

 

※ そのうに、日中エサが残っているのは当たり前ですが、それを食滞と早合点し、指でもみほぐすといった治療行為を試みる人がいるようです。しかし、そのうもデリケートな体の一部ですから、力加減によって大変に危険なことになってしまいます。特に飼育初心者は、絶対にやめましょう!万一、朝になっても、そのうにエサが残るような時は、小鳥を診るのが得意な獣医さんのいる動物病院で診てもらいましょう。

 

小鳥の飼育について「有識者」と自認するような人でも、文鳥の生態に関して理解が浅かったり、生半可な科学知識で自己満足しているだけで現実の飼育経験が浅かったり、個人的飼育経験は長くても、長い間、同じ方法がベストだと思い込んでしまっているだけ、のことが少なくありません。残念ながら、ヒナの成長を阻害し、生命の危険にも及びかねないことを、勧めてしまう人は、獣医さんにもペットショップの店員さんにもベテランの飼い主にさえ存在するのが現実です。
 アワ玉をお湯に浸したものだけを与えても、過半数のヒナは、ペットショップでの数週間くらいなら、生きていられることの方が多いでしょう。また、もし、そのうが空でない状態で、液状のエサを与えると問題が発生するとしても、親鳥がペレットだけを食べてヒナに給餌をしても、問題が起きる可能性は低いはずです(もしかしたら、5、6羽に給餌する場合、親鳥がすべてのヒナを満腹状態にするのは難しいため、問題にならないのかもしれません)。しかし、より危険性が大きくなる方法は、なるべく避けるべきです。特に初心者は、何かで得た断片的な知識を、危険性に気づかないまま、誤解して実行してしまい、後悔することが起こりがちです。変わったこと、独自の行動は、なるべく避けて、普通に、元気に、育ててください。


初心者が注意すべき点

 

1、作り置きしない

文鳥を飼育する場合、「もったいない」は避けられません。エサは、飢えないように、食べ切るよりも多めに用意しなければなりませんから、必ず残ってしまいます。しかも、ヒナの食べる量は一定ではありませんから、かなり多く残ってしまうこともあるはずです。しかし、その食べ残しを次回の給餌に用いるのは厳禁です。数時間の間に、雑菌が繁殖して病気の元になりますし、必要以上に水分を吸って膨張したアワ玉は、栄養面で劣ってしまうからです。ヒナが健康に育つために必要なコストと見なして、食べ残しは捨て、給餌のたびに新しいものを用意しましょう。

 

※ 日本で小鳥専門の動物病院を最初に開院された故高橋達志郎先生の給餌エサのレシピでは、湯漬エサに片栗粉を少々入れてトロミをつけることになっています。しかし、これはおそらく、そのう液の粘性が文鳥に比べて高いインコ類用に工夫されたか、ピンセットでつまんで与えるための工夫と思われるので、給餌器を用いる文鳥ヒナでは、真似をする必要はありません。片栗粉が多すぎて粘りが強くなると、かえって消化不良のもとになってしまいますから、むしろ避けるべきでしょう。

 

2、煮てはいけない

エサを柔らかくしたほうが食べやすいと考えて、水に浸したアワ玉を鍋などで煮込み、おかゆ状態にしてしまうと、かえって消化不良を起こし、最悪の場合、生命に関わる事態になってしまいます。アワもお米と同じで、煮込むと粘り気がでて糊(のり)のようになってしまいますが(これをアルファ化と言います)、人間と異なり、文鳥はそのうに一時エサを貯め、ヒナの場合はその量が多くなるので、粘り気のある食べ物はそのう内でくっついてしまい、食道に移りにくくなってしまうのです。
 昔の飼育書には、アワ玉を「ひと煮立ちさせる」とするものもありましたが、ひと煮立ちと煮込むのは大違いです。加減がわからない場合、鍋に入れて火をかけるようなことをせず、熱湯に浸して湯漬けエサにするのが無難です。

 

 

3、アワ玉の自作は避ける

市販のアワ玉では、栄養的に不足すると考え、むいたアワ、もしくは市販のアワ玉をフライパンなどで軽く炒った後に、鶏卵(玉子)の黄身をまぶしてかきまぜ、陰干しするなどして、自家製のアワ玉を作る飼い主もいます。しかし、密封して冷蔵庫に入れても、家庭環境で普通に乾燥させていれば、雑菌の付着は避けられないので、市販品のように日持ちせず、食中毒の原因にもなってしまいます。市販のアワ玉に栄養が不足していると考えるなら、パウダーフードなどを添加した方が安全で、玉子にこだわるとしても、飼料として市販される卵黄粉や、ゆで玉子の黄身を加えた方が失敗を避けられるはずです。

 

※ 日本で小鳥専門の獣医さんとしてご活躍中の方の中に、市販のアワ玉が腐らないのはおかしいと、思い込んでいる人がいるようなのですが、腐りにくいように乾燥させれば、特に添加剤を加えなくても、問題にならないものは、人間の食品にも普通に存在します。いかに専門的に優れている人ても、一般常識が欠如した部分があり、極論していることも有り得るので、注意が必要です。

 

3、危険なものを添加しない

大昔から飼い鳥の副食とされてきたボレー粉は、ヨウ素(ヨード)を多く含む海産物なので、それを与えている限り、その欠乏や不足は起きません。ところが、断片的な知識からそれを添加しなければならないと勘違いする「有識者」がいて、その間違った特異な意見を参考にして、ヒナのエサにうがい薬を混ぜてしまう飼い主がいます。しかし、日常的にそのような不自然な添加を行えば、欠乏症よりもヨード過剰症で重大な結果を招くことになります。また、鳥には歯がなく胃に砂粒を貯めておく必要があるといった事実をもとに、独自の工夫としてヒナのエサに砂を混ぜ、消化不良で重大な結果を招いてしまう人もいます。新しい工夫はよくよく検討してから行うべきで、初心者は避けるのが無難です。

 

 

テキトーでなく適当な青菜ペースト

 文鳥のヒナの親となる飼い主は、いい加減という意味でテキトーであってはいけません。ヒナは小さく繊細なので、テキトーな育て方では、すぐに生死に関わる問題になってしまいます。しかし、神経質過ぎるのも考えもので、一部分にこだわりすぎると、より問題になることへの注意がおそろかになりがちです。
 例えば、玉子の殻を与えたいと考えても、生卵の殻をそのまま使うのは、テキトーでしかなく危険です。生卵の表面には、いろいろな雑菌などが付着している可能性が大きく、使用する場合は、
ゆで卵の殻(もしくは洗って軽く炒るか、電子レンジで加熱したもの)を適当に使うのが無難なのです。
 青菜も、買ってきたまま与えてしまうと、危険なテキトー行為になってしまいます。もちろん、日本で使用される農薬の毒性は低く、出荷の頃には残らないように配慮されるので、残留農薬による悪影響が起きることは、まず有り得ません。しかし、露地物の野菜には、鳥の体内に寄生する虫やその卵の類や食中毒の原因になる菌類が付着している可能性はあるので、
適当に水洗いしなければなりません
 もちろん、その必要性は、無農薬や化学肥料を用いない有機栽培でも変わりありません。むしろ、土壌が豊かで野生の生き物が多い環境の作物ですから、衛生面での危険性は多少大きくなると考えたほうが無難でしょう。
 とは言え、汚れを洗い流す程度で、ほとんど問題は起きませんから、神経質になりすぎることはありません。テキトーで何もしないのではなく適当に水洗い、気軽に考えたいところです。 


水道水に浸して、数回揺らす程度
洗います。
キッチンペーパーなどで、
表面の水気を取ります。
キッチンバサミなどで、
細かに刻みます。
 
この刻んだだけの段階で、
与えても問題ないです。
擦ります。 密閉容器に入れ、冷蔵庫保管し、
1、2日で使い切りましょう。

 

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